夏に向けて
関東圏では梅雨の鬱陶しさが消えかかり、夏のカラッとした空気が近づいてきています。 眼と体を焼く白すぎる太陽、吸い込む気すら起きない熱気、歩く気を失わせてくる数十メートル先の陽炎、それらが暑さという足音を立てて接近しつつあります。
夏をこうして形容すると、それは梅雨よりもげんなりする季節の様に思えます。 しかし、その夏は、春の間に耳鼻科を悩ませる花粉も、梅雨の時期にずっと体を蝕んできた湿気も、すべてを忘れさせてくれます。
白い太陽と延々と続く蒼穹が暑さという鬱屈を携えながら祝福してくれるのです。 今回は真っ青な夏を描く「Zanjitsu」を紹介させていただきます!
https://youtu.be/ArWdzMYkbYY?si=DYp1aCrp6PYzkd12
どこまでも遠く広がる青「Zanjitsu」
「Zanjitsu」は切なくもまっすぐな若者の情熱に満ちたバンドです。
シャウト混じりの歌声が醸し出す青年の不器用さとギターを中心とした楽器隊が奏でる爽やかな青い音が調和し、「Zanjitsu」は憂愁に満ちた若い青春を描き出しています。
中学や高校とは異なり、夢の限界と自分の位置と現実にぶつかることでまざまざと見せつけられた青年たちの敗北と鬱屈、その涙と痛み、そして立ち上がってまだ足掻こうとする懸命な姿が一気に広がります。
その光景は常に青色に——ラムネ瓶のような透き通る青ではなく、のっぺりとしていて、ブルーな青。それこそ晴れ上がった昼間の夏空の様に——彩られています。
そんな等身大の痛みと青さを抒情的なバンドサウンドで描く素敵な楽曲から2曲紹介させていただきます!
https://youtu.be/nUqTzvTKBJ4?si=UET8n7vvSLRdtpAy
おすすめ曲
余年が過ぎて
爽やかなギターと青年らしい歌声(少年というにはしゃがれていて、大人というにはまだ若さが残っている声)が特徴的な楽曲で、聴いた瞬間に青い景色が広がります。
サウンドはエモーショナルなギターアルペジオを中心的に構成されています。 クリーンで透明感のあるギターサウンドですが、その音の連なりは無色透明ではなく、切なさの込められた哀愁を感じられる青みの掛かった無色です。
また楽曲中盤で、この色彩はシューゲイザー的なざらつきを帯びます。 それとともにボーカルの声は一層感情的になって叫ぶように歌います。 このことで、「余年が過ぎて」全体に漂う青さは、一挙に濃い青へと変わります。 それは、過ぎ去ってしまった時間への後悔と、それでも進んでいく現実に適応し、前に進んでいく強い意志に満ちた青色です。
中高生では知りえなかった現実的な痛み——社会が突き付けてくる「個人の限界」という痛み——を安酒で誤魔化して、足掻いて、必死に生きていこうとする青年たちの無数の感情が「余年が過ぎて」には込められています。
夏の夕暮れ時。 ジャズマスターの轟音。 ライブハウスの熱気。 缶チューハイの喉越し。 汗ばむ体。 笑い合う学生たち。 青春のひととき。 それが過ぎ去る感覚。 近づき来る現実。 その痛み。 それらは輪郭が明瞭な濃い青によって包まれる。
「余年が過ぎて」には、そんな青年たちの美しい青春が込められています。
https://youtu.be/YsnPS1R3838?si=BRBESxMPLxJBr9aT
あおい、駆ける
衝動を駆り立てるようなドラム、陽炎を想起させる幻想的なギター、海鳴りの様に重々しく響き渡るベース、そして別れの激情を叫ぶように歌うボーカル。 「あおい、駆ける」ではそれらが一体となって、痛みの伴う夏の青を描き出しています。
爽やかであり、楽し気でありながらも、「あおい、駆ける」には微かな悲哀が滲んでいます。 それは真夏の、海辺の、やけに真っ青な海と蒼穹のもとのうだるような暑さであり、熱でぼうっとする頭の中で繰り返される別れの痛みです。
イントロのシューゲイザー的なサウンドはその暑さを、その後の爽やかで激情的な曲展開は海鳴りや別れの悲しみ(相手がいなくなってしまったことへの怒りにも似ています)を表し、胸が締め付けられるような抒情性を曲世界に与えています。
その抒情的な世界には、「悲しい」や「苦しい」という情動だけではなく、それらを踏まえながら現実と向き合い、それでもなお前に進んでいこうとする前向きな意志が込められています。
それは痛みを乗り越えた青であり、輪郭の伴った青であり、現実と連なった青であり、決して消えることのない青です。
倒れてしまいそうな暑さに負けることなく、その暑さが見せる陽炎と海鳴りのような別れの痛みに負けることなく、生きようと試みる若者の現実が「あおい、駆ける」には込められています。
https://youtu.be/vV-BentF6EY?si=FXcOMeXnuhIygS9B
道先案内
「Zanjitsu」は、エモやシューゲイザーとジャンル的にまとめられるのかもしれません。 ですが、その音楽は単なるエモ、単なるシューゲイザーとして消費されるには、あまりにも現実的な重みを持っています。
そして、それは夏の青さに彩られています。繰り返される暑さ、その度に感じる時間が過ぎ去ってしまったことへの感傷、そんな夏の抒情が「Zanjitsu」の楽曲には含まれています。
透明よりも濃く、塗りつぶしにしては透明な、どこまでも遠く広がる夏の青を「Zanjitsu」で味わってみてください!
https://youtu.be/ArWdzMYkbYY?si=cIz89cqw7G3vx2IU
https://open.spotify.com/artist/1nNjKRmtkIYzpoRAJ8El5M?si=RDFjjY2AS5-xk7mP83LPOw