経験という道標
幼少期、思春期の時分に、自身の理想像を思い描いたことはあるでしょうか?
サッカー選手、YouTuber、公務員にバンドマン。
そんな理想像は多くの場合、人生の目標となります。そして、ある程度の自由を得られる年齢になれば、それを実現させるための行動を試みたはずです。
しかし、理想像に近づけば近づくほど、思い描いた世界はくすんでいて、どうしようもないほど残酷なことを(生まれ育った環境、生まれ持った才能、人との繋がり、判断基準の曖昧性)突き付けられます。
また、自由には、就職や家庭事情による時間的制約があります。制限時間に到達してしまったら、理想を求める歩みは強制的に止められます。
ですが、衝動的な理想像への歩みが終わり、それが倦怠しか生み出さなかったとしても、振り返れば足跡が残っています。
仲間の声や体温、理想像に向かって足掻いた自らの血と汗が刻まれた足跡という道標は、理想を諦めてしまった自らの生を肯定してくれます。 そして、一度築かれた道標は何度でも夢に立ち返っても良いことを保証してくれます。
今回は、何度でも諦めてよいことを肯定し、自己実現に向けて背中を押してくれるバンド「34」を紹介させていただきます!
https://youtu.be/F-4g594UYQo?si=scBjpKajyg_UxzKD
理想を追いかけること、それを諦めることの肯定「34」
「34」は3ピースのオルタナティブロックバンドです。
抒情的で心に染みるような歌謡ロックの要素、衝動的で体が突き動かされるようなオルタナティブロックの要素が絡み合った音楽性をしており、疲れ切った倦怠や貪るような努力を抒情的に奏でています。
そして、3ピースバンドとは思えない音の厚みと重さがサウンド的な特徴となっています。
抒情的な歪みと乾いて澄んだギター、破壊的な重々しさと柔らかなふくらみを持つベース、力強く走り抜けるようでありながら一歩一歩を踏み確かめるようなリズムを刻むドラム、絞り出した叫びにも似た美しいボーカルと調和し、心一杯の情熱に基づく諦めを肯定する楽曲を奏でています。
それは「これまで精一杯努力してきたんだ」という熱のこもった倦怠の諦めであり、「精一杯やってるんだ!」という息切れを感じさせる衝動です。 理想に向かって歩んだ人だけが持つ充足した疲労と同等の悔しさ、理想へ向かって突き進んでいる人にもたらされる焦燥と憤り。
理想への歩みの中に込められた感情を「34」は真正面から肯定し、同じくらいの情熱をもって支えてくれます
そして、「34」の素敵な楽曲から2曲紹介させていただきます。
https://youtu.be/eGaMzG5RlY8?si=0v8o6D2bxgOShNne
おすすめ曲
Japon
「Japon」は「34」の衝動性を存分に味わえる楽曲です。
真っすぐに、無邪気に、懸命に理想へ向かって突き抜けるような乾いたギターから始まる楽曲です。
そこに、楽曲全体を支える気取らないベース、疾走感にあふれるリズムを打ち鳴らすドラム、心の底から吐き出されるボーカルの歌声が混じり合うことで、ひたむきに現実へ挑み続ける人々の衝動が立ち上がります。
ただし、その衝動の熱はじっとりとしたような体に纏わりつくような熱ではありません。 「Japon」で立ち上がる熱は、爽やかで刹那的な熱です。爽やかさはクリーンなギターリフによって表現され、曲終盤の歪んだサウンドによるギターソロによって刹那性が表現されています。
理想に向かって突き進む人にとって、その理想だけが価値を持っています。 時として異なる理想を追う人を馬鹿にしてしまうこともあるでしょう。 そして、この跳ね返りとして仲間から馬鹿にされることもあるでしょう。
そんなときあふれるのは、嘲笑と悲劇、喜びと悲しみが込められた声と涙です。 空々しい響きを残す声は歩みを励ましつつ停滞させ、零れ落ちる涙は心を慰めつつ傷つけます。
ただ、理想への衝動と焦燥はそれを制御させてはくれません。
歩みの一歩一歩は、向こう見ずで、ひたすらに愚かしく、刹那的なのです。
「Japon」は、そうした理想に向けた歩みの一瞬の情動を描き出しています。
https://youtu.be/7RMcAdVU7NQ?si=ygOZmYiFSVXDUwfR
smudge season
じりじりとした心のくすぶりを表現するような歪み切ったベースが特徴的な楽曲です。
「smudge season」は全体を通してノイジーかつ緩急が明瞭なサウンドで構成されています。
この昂っては落ち着く人の情動に根差したサウンドと曲展開は、人間の有機的な熱と感情を表現しています。これにより「smudge season」は等身大の曲として立ち上がります。
特にサビの歌詞は理想を追いかける人の不安定な情動と身体性、そして理想を追うことを一度諦めた人の爽やかな熱を見事に表現しています。
理想を追いかけていた日々は、焦燥感でいっぱいだった。 それでも懸命に日々と戦った。 制限時間がやってきた。 現実を直視しなければならなくなった。 現実として手で触れられるのは、ポケットに入った幾らかの小銭。 それが、憂鬱とともに歩んだ夢の結果だった。 けれども、かつての思い出は輝いている。 それは、理想への道に戻るための道標。 だから、寂しい夜を乗り越えて明日を迎えられる。 だから、現実に絶望することなく前に向かって歩める。
「smudge season」は、夢半ばで現実と向き合う必要に迫られた多くの人を肯定する素敵な楽曲です。
https://youtu.be/FB7ToodmVX4?si=q5HK0RY_iwCMe0Er
道先案内
「34」は、理想を追い求める人の背中を、そして理想を追い求める道半ばで諦めなければならなかった人の背中を押してくれる音楽を奏で、すべての楽曲に現実的な人間の姿が滲んでいます。
前を向いて進んでいる人、かつて前を向いて進んでいた人、これから前を向いて歩こうとする人を肯定してくれる稀有なバンドです。 楽曲はいずれも説教臭くなく、作られた明るさに縁取られていません。実直で、誠実で、人間の酸いも甘いも汲み取った、嘘偽りのないものです。
「34」の泥臭くも美しい楽曲をぜひ味わってみてください!
https://www.youtube.com/@34_sanjushi41/videos
https://open.spotify.com/artist/2NGC0GsOmGOsnxIXa0JOCW?si=KXo2NPMuQYa-TOEEPd9Wxg
https://music.apple.com/jp/artist/34/1465060030