色褪せた画
フィルムで撮られた写真や映像には独特な空気が漂っています。
微かにざらついた像、滲んだような輪郭の曖昧な色、ぼんやりとして柔らかな光。
そうした要素が一つの画面に収まることで、フィルム写真やフィルム映像は現代のデジタルデータによる現実の記録という意味を越えた別世界を生み出します。
それは空想がノイズやブレの多いフィルムの画に充填されるからでしょう。
不完全さを持つ画に空想という補完が注がれることによって、現実とは違う別世界が開かれ、人々はそこに美しくも悲しい物語を描き出すのです。
そんなノイズと滲んだ色の余白によって創り出される別世界を、抒情的なバンドサウンドで描き出す「plasticpoolside」を今回は紹介させていただきます!
https://youtu.be/90_ZZ4Sttu4?si=90pGeHdKIo2igw_v
ノイズ、滲む色によって描き出される美しき世界「plasticpoolside」
「plasticpoolside」はオルタナティブ・ロックのジャンルに分類されます。
金属的な冷たさを覚えるクリーンなサウンド、ノイズに溢れた轟音サウンドが素晴らしい旋律を奏でるバンドです。
心の奥底にある情緒をゆっくりと揺さぶってくるギター・ベース・ドラムの調和、心に動揺を抱える少年の様な歌声。
それらが一体となった音像は、ぼんやりとした現実像を描き出すとともに、余白に伴うメランコリーな物語をも描き出します。
それは「plasticpoolside」の音楽によって生じる空想的な痛みと激情(空想の根本にあるのは、現実に生きる私たちの苦しみ全般です)であり、それらに満たされた物語は空想であるはずなのに、あらゆる感覚を想起させます。
工業地帯を眺望する海辺、 白々しい太陽光、 ちっぽけでお粗末な自分だけの城という名の子供部屋、 始まりも終わりも刹那的な恋愛、 黴臭い風で満たされた部屋で見つめる木目模様の天井、 制汗剤の染みついたマットレスの臭い、 冷や汗とともにちらりと流れる涙。
非現実的な爽やかさと、じっとりとした現実的に溢れた物語が、「plasticpoolside」の音楽では1つの画として立ち上がります。
非現実的な空想としての美しくざらついた物語。
その像を作り出す素敵な楽曲から2曲紹介させていただきます。
おすすめ曲
自殺について
脚を引きずってしまうような籠ったギターのコードストロークから始まり、真冬の夜風の様なギターリフによって展開される楽曲です。
このメランコリーに溢れた世界の広がりは、大切な誰かがいつかの冷たい季節に居なくなってしまった歌と符合し、多くの人々が経験したことのない胸の苦しみと叫びを作り上げます。
苦しみはボーカルの絶叫とまではいかないシャウトと、激情に身を任せた青白いギターソロ、そして重々しいベースと力強く叩かれるドラムによって表現され、空想的な世界に色と温度と手触りを与えます。
「自殺について」は全体的に音が重々しく曇っているように感じられます。
ただし、その音色の重さや曇りは、ホラー的な意味ではありません。 音色に付加されている重み(音の表情としての重み)は、暗い空気を纏っていながらも、心の奥底で滞留して、ドロッとした黒い液体を吐き出すようなものではありません。
それらは「自殺について」が描き出す青白くて悲しい物語の画に閉じられた永遠の刹那です。そのため「自殺について」で奏でられる旋律は常に真新しく、物語を進める動力を持っています。
誰もいない薄暗い部屋で一人。 冷たい季節に消えてしまった人を想う。 その綺麗な目を、 その柔らかな微笑を。
冷たくて、仄暗い、美しい世界が「自殺について」では描き出されています。
https://youtu.be/3GdHKxQbMY0?si=TWufZgY8a0wVNKCL
砂漠の月の下
乾いたドラムのリズム、ノスタルジアを覚えるギターリフによるイントロから一挙に轟音のバンドサウンドが立ち上がり、ざらついた世界を描き出す楽曲です。
「砂漠の月の下」は緩急が明瞭な展開の楽曲であり、青春期の情動の不安定さや刹那性を余すところなく表現しています。 このことは常に歪んだ音を鳴らしているベースによって、より克明に描き出されています。
クリーンなギターと語りかけるような歌声によってサビ前まで楽曲が展開されますが、その中にあってもベースは重々しく歪んだ音を鳴らし、本来的に青春期の感情が不安定であることを表現しています。
そしてサビ前のブレイクで各楽器は歪みという名の昂りを得ます。
この調和がボーカルの不安定な力強さを含む歌声と混じり合うことで、青春期の若者たちの心の中で戯れるあらゆる昂ぶりが表現され、サビでは昂ぶりが感情として一挙に解き放たれます。
「砂漠の月の下」は枯葉を帯びた都会の木立と、嫌なほど澄んだ茜空、青春期の若者たちの心の中でくすぶる情動とが一挙に描かれます。
真っ白なワイシャツが汗で張り付いた背中、 大切な人を前にくぐもってしまう声、 その手を取ろうにも臆病になってしまう青白い手、 それらを照らし出す茜色の陽光。
誰もが経験したことのある感情ではあるが、それが集約された場面にはほとんど誰もが立ち会ったことのない切なくて青い恥と痛みに満ちた光景。
社会という若者にとっての砂漠。 何もない場所で月の様に青白く輝く人。 そんな人に蔑まれて、 そんな人に疎まれても、 その人が素敵であるから求めてしまう。 例え、その歩みが躊躇いに満ちていても。
「砂漠の月の下」では、そんな淡い激情に溢れた世界が開かれています。
https://youtu.be/BwAy83zyDmo?si=4UVIyFysID6xL0EK
道先案内
「plasticpoolside」は、フィルム写真や映像の様にくぐもった美しさを持っています。 その余白という名の曇りには、私たちの心に空想的で、甘美で、切なくて、美しい現実世界と連関した像を結びます。
オルタナティブ・ロックのサウンドによって描き出されるその像は、ロックに求めていた刹那的で壊れそうな美を余すことなく抱合しており、ずっと聴いていられます。
懐かしさ、美しさ、悲しみ、苦しさ、そして激情。 それらを「plasticpoolside」の衝動で味わってみてください。
https://youtube.com/@plasticpoolside?si=y2b0kkDqxD7kj01D
https://open.spotify.com/artist/05Se9qYbomRs0zehm415Ui?si=RK9C_dpjRn6kGcxxLNJKLw
https://music.apple.com/jp/artist/plasticpoolside/1789701160
余力があれば
「チグリヂア.e.p」というEPを通して聴いてみてください。 蒼く、碧く、青い季節の音を切ないドラマとともに味わえますから。 特に「君の心臓と紫陽花」は素晴らしいです。
https://youtu.be/57ML1rZxK_g?si=xxiVdDWLoPwYPuAA
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_kjsD1mJbhUnGQFAcsYMV0znHi3Q1wywVg&si=3wEwKszaqFVGcYCw