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音の響き、言葉の連なり「killmilky」

音の響き、言葉の連なり「killmilky」

2026.05.10

前書き

シニフィアンとシニフィエ。

フランスの哲学者ソシュールが定義した言語学用語です。

シニフィアンは表象、シニフィエは概念を示しています。 かみ砕けば、シニフィアンは「指し示すもの」、シニフィエは「指し示されるもの」と言えます。

そして、これらの用語から世界は「表象」と「概念」がまとまった場として説明されます。

ただこんなことを言われても「何言ってんの?」となるでしょう。

実際に、ラカンという先生は「これって、言語(シニフィアン)が先行してて、概念(シニフィエ)は後から言葉についただけじゃん」と、「言語」と「概念」と「世界」の関係性を懇切丁寧に説明し直しました。

もっともこうして説明し直したとしても、その説明自体、世界を無機的な記号の戯れの場とするものです。

ですが、現実はこの説明に基づいているでしょうか?

現実の世界には多様な美が満たされています。 「世界=言語」と認知しても、「言語」に内包される「記号」や「音」の諸要素は、音の響きと記号の連なりによる美を作り上げます。

そして、柔らかくも暖かく触れればすぐに溶けてしまう繊細な光をその美は宿しています。

今回は、そんな言語に還元された世界の美「killmilky」を紹介させていただきます!

https://youtu.be/b8hwpdW6RkY?si=UTUbOyDo-fNqYF3s

音の響き、言葉の連なり「killmilky」

「killmilky」の音楽は、夢幻の様相を想起させます。 恰好を付けずに言い表せば、色とりどりの綿菓子が満ちている場です。

軽くて、口に含めば溶けてしまう綿菓子。 ザラメの結晶が鮮やかな極彩色であったとしても、いちど綿菓子にすれば、その色は靄を帯びます。

「killmilky」は、そうした柔らかくて優しい色に満ちた世界を作り出しています。

もっともその世界は、口に残る甘味では満ちていません。 そこには、懊悩の苦みがあり、存在に対する辛さがあり、意味もなく流れ落ちる涙の塩味があり、届かぬ場所への酸味があり、甘味もまた安息を願う非純粋な甘みです。

抽象的な表現に頼りすぎていますが、本当にこのような光景を思い浮かべられるのです。

また、詩的な言語表現を抜かせば、「killmilky」の音楽性はシューゲイザーとして分類されます。

非暴力的で内省的な轟音、微かに悲し気なメロディ。 そこには「記号」に還元されながらも「記号」の無機性に属さない美しさがあります。

今回はそうした楽曲の中から2曲紹介させていただきます!

おすすめ曲

シニフィアンが溶け出す

水音のサンプリング音源が特徴的な楽曲です。 加えて、ギターの音色や女性ボーカルの歌声がともに境を持たない空間的な響きを持っている点も特徴と言えます。

楽曲は揺蕩うメロディとシンプルなリズムで始まり、曲中盤にかけてベースやドラムスは力強さを増し、ギターは歪んで音の輪郭を失う。この中盤の構成は曲終盤で再び現れ、最終的に一塊となった音が寸断される形で楽曲は終わります。

それは柔らかく暖かな水の中に沈む肉体と、その頭上を飛び交う鮮やかな無数の光線。

幻想的な光景の中にあっても、肉体は限界を感じてしまう。

人は酸素を求めて浮かび上がろうとするが、脳は悦楽に浸っていようと本能を拒絶する。

そのうちに苦痛の中に意識は明滅し、遂には悦楽の中で消えてしまう。

この曲はこうした意識の終わり——言語の解体とその終わり——を描いているように感じられます。

https://youtu.be/lhpIz3D0DXg?si=hulf7l0Gh9fVC14s

この世界を信じる理由

泣き叫ぶようなギターが特徴的な楽曲です。 本当に誇張なくギターが泣いているのです。 そして、それは慟哭です。 喧しく、厭わしく、けれども愛くるしい叫びです。

ただ、ギターがこのような情景を放っているのにも関わらず、楽曲全体は柔らかな光で包まれています。

霞はあらゆる光を包み込み、眩さを軽減させてその刺激を和らげる。 その光がどこから、どうやって発せられたのかはわからない。 幸福ゆえに現れた美しき光なのか、それとも不幸の際にあって発現した閃光弾の如き光なのかは、光源に近づかなければわからない。

けれども、その光の先から慟哭が聞こえてくれば?

その先には不幸がある。 抜け出せない暗闇がある。 簡単に触れてはならない繊細な傷がある。

それでも、痛みを抱える精神の火花は美しい。 懊悩の閃光は、瞬きの光は、それを見る人の目には残酷にも美しく映ってしまう。

https://youtu.be/VZXPeSKP-VM?si=NqMlGp9oKmJHFrVh

道先案内

「killmilky」は、柔らかくも暖かい一面と、硬くて冷たい一面、この相反する特性を持つアーティストです。

そんな複雑な音楽性を持つ一方、その楽曲は音色をとっても、展開をとっても、非常に聴きやすいです。シューゲイザーの入門としてもおすすめです。

また歌詞表現も素晴らしいです。 歌詞を読みながら各楽曲を聴いていただけると1曲1曲に対する理解が深まると同時に、素晴らしき感動を覚えられると思います。

無機的な「言語」の冷たさを越え、シニフィアンとみなされる記号が有機的に戯れる光景の音楽的表現に触れてみてください。

それはとても美しいので。

https://www.youtube.com/@killmilky

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