退廃の下にあるもの
退廃的な雰囲気は陶酔的な気分を与えてくれます。 それは、タブーに接近した甘美で緩やかな空想が、現実の裏側にあるためです。
八割の忙しなさと二割の切なさに満ちている現実には、多くの暴力(物理的な行為だけではなく、言葉や社会的要請も暴力です)が溢れ、暴力に人は晒されています。
この暴力は絶望を引き起こし、何とかこれを癒そうと、現実とは対照的な非倫理的な空想を人は思い描きます。
この空想中で結ばれる種々の像は暴力の影です。 痛みを与えてきた現実に復讐ができないために、退廃的な空想が影として描かれるのです。
そして、この空想の精度は現実からの暴力を受け続け、暴力に苦しみ続け、自らを自らで罰するようになった人であればあるほど強まります。
周縁に追いやられた人の痛みは、強烈な痛みの対偶でしか和らげられないのです。
今回は、現実の暴力性に向き合い、その影を真正面から奏でる「AUBREI」を紹介させていただきます!
https://youtu.be/WNzex6sCpbU?si=y0EU0wSg1hAz4e44
現実という暴力への抵抗を奏でる「AUBREI」
「AUBREI」は、日本のオルタナティブロックバンドです。
透き通りながらも歪んだギターと、強さと繊細さを兼ね備えたリズム隊による、演奏技術に裏打ちされた重厚なサウンドが特徴的なバンドです。
真っすぐ伸びるボーカルの声は、現実という暴力に誠実に向き合い、そこから発生した苛立ちや憤懣や無気力を実直に表現しています。
そして、各楽曲は現実がもたらす痛みを汲み取っていて、退廃的な青さを纏っています。
それは深夜の色彩に似ています。
住宅街の真ん中で輝き続ける無機質なコンビニの熱、 カーブミラーに反射するスマホの光、 車通りの少ない道路に架かる錆び付いた歩道橋の質感。
誰かはいるはずなのに誰もいない。
深夜が持つ、 透明で、 くすんでいて、 黒くて、 白い、 薄らと広がる青が「AUBREI」の楽曲に詰まっています。
そして、この青は現実という暴力に痛めつけられ、居場所を無くした人(あるいは居場所がないと思い込んでしまっている人)の痛みをやわらげてくれます。それはこの色彩が、精神的孤立がもたらす冷たさに、現実の重みを伴って呼応しているためです。
そんな素敵な「AUBREI」の楽曲から2曲紹介させていただきます!
https://youtu.be/oULKV2iY1r8?si=TWHKQQhyewjr1MpN
おすすめ曲
さくら学級
ざらついたアルペジオから始まる「AUBREI」の美しさが籠った楽曲です。
再生直後からボーカルの魅力的な声音とざらついたアルペジオが奏でられ、一気に惹き込まれます。そして、イントロのブレイクを経て立ち上がるバンドサウンドは、静と動の対比が際立つ爽快感溢れる展開となっています。
また、歌詞の持つリズムに寄り添いその心地良さを最大化するベースとドラムの演奏は楽曲を立体化させています。その上で、切なさと衝動性を背負うギターサウンドと、リズム隊の演奏が融合することで、「AUBREI」特有の退廃的な青が作り出され、「さくら学級」は透き通った品を纏います。
「さくら学級」の持つ品は、愛の暴力性を描く歌詞に重みを与えます。
そして、歌詞はこの重みによって現実性を持ち、「さくら学級」という曲にリアリズムをもたらします。
愛している人と一緒にいることで生まれる感情は、善良なものだけではない。
人と人の関係である以上、好意に対する疑いがある。
だから、自分が大好きな人を信じられなくて嫌いになってしまう。
それでも、愛しているという気持ちがあるからこそ好きな人と関わろうと試みる。
精神的問題による拒絶を経験していたとしても、誰かにその拒絶を愚痴として吐いていたとしても、ニヒルで不格好な言い訳をして愛のために試み続ける。
生活が懸かっている仕事があったとしても、愛している人のために関わろうと試み続けてしまう。
「さくら学級」はそんな愛の持つ暴力性を、静と動のダイナミズムが溢れるバンドサウンドによって奏でている楽曲です。
https://youtu.be/27sARu4FqEI?si=vW2azoHHGAPuuZbN
真覚醒剤
愛の静かな冷たさを描き切った楽曲です。
冷たさと切なさを兼ね備えた音色のシンプルなギターリフと、リフの余白を殺さないダイナミックなバンドサウンドから「真覚醒剤」は展開されていきます。
不要な音を削ぎ落としたイントロとAメロには、騒々しさや賑やかさはありません。 そこでは、朝4時の寝室に満ちる空気のような余白のある美しいサウンドが奏でられています。
ただ、その余白は完全な空白地帯という訳ではありません。
掠れかかった記憶のように、微かに歪んだギターの残響が確かな音の跡を刻んでいる余白です。
余計な音を削ぎ落とした音と洗練された鋭く切ない音色による曲の構成は、曲中の各パートを通して変わりません。 曲中盤で、楽曲全体に対して緩急をつけるジャムセッションのようなパートが展開されますが、そのパートでも余計な音はありません。 それぞれのパートが楽曲の持つ静かで冷たい情動を純然と表現しています。
こうして作り上げられた「真覚醒剤」は、薬では到達し得ない愛による幸福と、それが持つ刃のような冷たさを表現しています。
一度、愛を味わってしまえば人はその愛の継続を願う。
一生涯、その愛が続くように。
けれども、永遠に持続するものなどなく、愛は途切れてしまう。
そのときに、人はこれまでにない不幸を覚え、関係が続いていた時には予期できるはずがなかった非情な痛みを感じる。
それでも、大切な人との時間はなにものにも代えがたいほど甘美。
だから、現実が見えなくなる薬は使わない。
大切な人を現実の目で見て、愛による幸福を願う。
冷たくて、静かで、痛ましい、離脱症状がその愛に待っていたとしても。
「真覚醒剤」は、そんな現実の愛が持つ静かな冷たさを真っすぐ奏でている曲です。
https://youtu.be/w13-74BQuxU?si=34-L2gQxh0UyPeU5
道先案内
「AUBREI」は現実に根差し、現実に対する対抗として、リアリズムを持った美しい楽曲を奏でるバンドです。
その音は青みを帯びており、愛や生活に傷つけられた人へ静かに寄り添って、静かに怒って、静かに泣いてくれます。
悲しみに誠実に寄り添ってくれる素敵なバンドなので、心が辛くて壊れそうになったときに聴いてみてください。
その心を支配する青を肯定して、良き生を願ってくれますから。
https://www.youtube.com/channel/UCk61tC_kDjPIyMWJ9a5v-kA
https://open.spotify.com/artist/2EIJu2ZARmuYscXGhriV14?si=7vTDlwxNQuS9gb8JaHWMoQ
https://music.apple.com/jp/artist/aubrei/1786312525