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インターネットとその混沌としたざらつき「vぃv天使」

インターネットとその混沌としたざらつき「vぃv天使」

2026.07.05

前書き

毎日、毎時間、毎分、現実を直視し続けるのは精神に異常をもたらします。

途方もなく終わりの見えない仕事、終わりはあるがそこまでが遠すぎる試験勉強、自分ひとりの力では変えられない暴力的な環境。

そしてそこに纏わりつく人間の脳では到底処理しきれない無限大の情報。

複合的な化け物としての現実を見続けてしまえば、分裂が精神にもたらされます。

だからこそ、現実から逃れるための別世界が必要なのです。

ただ、要請される別世界は千差万別です。

ともあれ、その別世界で現実を忘れるためには人と関わり合わる必要が大いにあります。自分一人だけで別世界を作ることは不可能です。

しかし、関わるあらゆる人に傷つけられ、人を信用できなくなってしまった人もいます。 そんな人に残された最後の手段が——他者と身体的なかかわりを持たずにいつでも潜り込める別世界が——インターネットです。

今回は、そんなインターネットという素晴らしき別世界の混沌とざらつきを表現する「vぃv天使」を紹介させていただきます

https://youtu.be/tAXpwgc6jJU?si=AOveI1hgmTHsTF_z

インターネットとその混沌としたざらつき「vぃv天使」

「vぃv天使」のジャンルは、ポストインターネットロック・ノイズポップに分類されます。

楽曲全体を覆うノイズの中、赤み掛かった紫色のメロディが不自然なほどの調和を保ちながら美しく奏でられています。 それは社会に対する孤独を演じて紡がれるメロディではなく、本当に孤独で誰かと同じ世界に属したくとも属すことを許されなかった深い憂鬱とそんな社会へのアイロニーに満ちたメロディです。 そして、このノイズの奥で連なる美しき音は、インターネットという複雑怪奇な別世界を描きだします。

ただ、「vぃv天使」の音楽によって描き出されるインターネットは憎悪の増幅装置として現代に君臨しているそれではなく、孤独とユーモアを抱えた社会のはみ出し者たちが自分たちの持ちうる孤独とこれを基に築き上げてきた偏った知識によって建設されていったインターネットです。

だからこそ、「vぃv天使」の音楽は幼少期からネットに漬かっていた世代にとっては懐かしさを覚えさせ、そうでない人の脳裏にも理想としての別世界を描き出せてしまうのです。

また、メランコリに満ちた中性的なボーカルがこの音楽性に加わることによって、「vぃv天使」が作り出す世界は一層非現実的な空間となります。 それは画面の向こう側であり、孤独のうちに閉じ込められた人々が求めていた世界であり、社会から求めてはならないと言われたサブカルチャーの理想郷です。

おすすめ曲

あの夏に

「vぃv天使」の描き出す世界が一挙に立ち上がり、その音楽性の持つ美学と理想郷への希求を味わえる楽曲です。

「あの夏が死んだ」は、古いPCゲームの起動音を想起させるイントロから始まります。 ノスタルジアを感じさせる電子音はドラムの4カウントとそれとともに始まるグリッチノイズの様な轟音に飲み込まれ、圧倒的な質量を有した孤独とその逃避場としてのインターネット世界の双方を作り上げます。 音楽による世界観の立ち上がりは、夏場の夕焼け小焼けの下校道が一挙にノイズに飲み込まれる様を描き、鬱陶しくて仕方がない現実とそこから逃げざるを得なかった人々の苦しみをありありと表現しています。

また楽曲を全体がざらついたノイズ(ボーカルもエフェクトによってざらつています)が掛かっているのにもかかわらず、メロディを奏でる鍵盤の音だけはクリーンな像を保っていて、その相反性が「あの夏に」全体に、憂鬱で、思い通りにならなくて、けれども、根本的に逃避することのできない現実の像を描き出しています。

夕焼け小焼け、一人ぼっちの夏の帰り道。 現実の、思春期の夏が、すべて没落することを確信した。 夏の暑さか、PCの排熱か、わからない暑さ。 なくなった青春を埋めるように、薄暗い部屋でネットに潜った。

「あの夏に」では、そうした鬱屈と孤独と倦怠とが美しいメロディとノイズの中で奏でられています。

https://youtu.be/93gnh90DzWk?si=DSqF0dCHjw4rkmHc

Lie to novel

PCの冷却器の音と肉塊が蠢いた様な効果音の非常に不気味さを覚えさせる音から始まる楽曲です。 しかしその直後、メランコリに満ちていながらも快く美しいギターと、歪み切ったドラムとが合流し、楽曲は一挙に爽やかな空気を纏います。 そして中性的なボーカルが小説を書く孤独な自分と同じ立場にある向こう側のたった一人に向けた詩を歌い始めることで、楽曲は淡い光を帯びた夕暮れ時の世界を作り上げます。

「Lie to novel」は甘酸っぱい世界が虚構であることを知らせるノイズを纏っています。 他方で、爽やかで、メランコリックで、切なさを覚えさせるメロディも奏でられています。 画面の向こう側が決して見えなかったかつてのインターネットという甘美な世界、それを求めてしまう現実の絶望と孤独とが「Lie to novel」では表現されています。

何より、表題「Lie to novel」自体が甘美な理想と辛酸な現実——小説という媒体自体虚構であり、インターネットでそれを書くことは虚構の中で虚構を書くこと——を突き付けています。

インターネットで見つけた面白い小説。 誰かが書いているかはわからない。 ただ孤独な自分の気持ちを理解してくれる。 きっと、それは素敵な人。 そんな人の、その小説の、一部に成れることを一人ぼっち思い描く。

「Lie to novel」はそんな美しくも倒錯した感情を描いています。 ぜひ、この儚く崩れ落ちる予感を味わってみてください。

https://youtu.be/E8PBsMeiKnY?si=P4pvZHmzROobhZOB

道先案内

「vぃv天使」は、かつてのインターネットを求める孤独者の辛くままならない現実に寄り添ってくれる音楽性を有しています。

インターネットが持ち合わせる他者との接続への無限大の可能性と、それがユーモアのためだけに消費されていたいつかの時代、そしてここに来れば自分と同じような孤独者と会えるという期待を感じ取ることができます。

またその音楽はとがっていながらも、メロディに富んでいて聴きやすいです。万人に受ける音楽性ではないと思いますが、心に孤独を抱えている人であれば、集団から外れたことの経験がある人であれば、好きになれます。

インターネット美学に満ち溢れ、そこに充足する孤独と混沌をぜひ「vぃv天使」で味わってみてください!

またMVがめちゃくちゃにカッコよいのでそちらのぜひ!

https://www.youtube.com/@v_i_v_angel

https://youtu.be/tAXpwgc6jJU?si=pRPqCh_3tvGQDV0X

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