前書き
街中を歩いていると周囲(音楽や景色)から目を逸らし、自分自身を見つめてしまう瞬間があると思います。
「どうしていまここにいるのか?」、「今日、何かしたっけ?」、「このままでよいのかな?」、「なんで、あのときあんなことしたんだろ?」などなど。
こうした疑問は、自己嫌悪や将来に対する不安を立ち上がらせて心を沈ませます。
その再興には痛みが伴い、事柄の全てをモノクロの景色に没落させます。
無機質で、殺風景で、冷たくて、焦燥感を駆り立てる景色。
こんな薄暗い心の景色は不要です。
ですが、この景色を見たことがなく、悲痛な身じろぎの経験がないことも悲劇です。
感情の没落と再興の繰り返しが人を豊かにします。 それゆえ多くの傷を負い、その度に這い上がって、もう一度この世界に臨もうとする人は素敵に見えるのです。
ただし、「1人で立ち上がれ」というのは酷です。 ささやかな励まし(心の痛みに寄り添っているものに限ります)が不可欠です。
今回はそんな内省的な痛みを支える「Laget’s Jam Stack」を紹介させていただきます。
立ち上がるために「Laget’s Jam Stack」
「Laget’s Jam Stack」の楽曲は重々しい印象を抱きます。
日常の些末な出来事が与えてくる苛立ちや、凄惨な出来事が及ぼす深い絶望、とりとめのない瞬間に流れ落ちる古い悲しみを感じさせます。
一言で纏めれば「陰鬱な印象」と表現されると思います。
ですが、それがかえって快いのです。
酷く悲しいことがあったときに、コメディ映画を見ても白々しく、街の看板広告には辟易します。たとえ、忙しなく騒々しい現実を忘れさせるために多くの善意からそれらが作られたとしても、没落した精神にとってその善意は無意味です。
傷を抱える精神にとって必要なのは、ただ自分の心を理解して、その痛みを肯定してくれる存在です。
「Laget’s Jam Stack」は、泣きながら、叫びながら、一緒に倒れながら、心に傷を負った人を肯定してくれます。
また、これまで重苦しい言葉で「Laget’s Jam Stack」の印象を紹介してきましたが、音は爽やかで耳馴染みが良いのでとても聴きやすいです。ジャンル的に言えば、ハードな”Midwest Emo”となるので、メロディアスなロックが好きな人であれば、誰でもよいと思えるはずです。
ただ、ジャンルに基づく評価を越えた音楽性を「Laget’s Jam Stack」が有していることを覚えていただければ幸いです。
おすすめ曲
排莢
苛立ちを感じさせるパンクス的な楽曲です。
その苛立ちは、自らの外部で起こった事象ただ1つを経由したものではなく、それを消化したうえに生じた苛立ちです。
心の中で「ああでもない、こうでもない」と唱え続け、現象と向き合う自分自身に苦悶したうえに、吐き出された——吐き出さなければ自分が壊れてしまうがために——苛立ちがこの楽曲から感じられます。
それは、自分だけが取り残された苛立ちとも表現できます。
友人や知人や家族が人生の分岐点に立ち、自らの道を選択して歩み始める。 けれども、自分だけは分岐点で立ち尽くし、遠退いて行く彼らの背中を見つめている。 停滞を所以とする人生選択への焦燥感は、忙しない運動を精神に与える。 しかし、体は空回りして、分岐点で転んでしまう。 そうした繰り返しの末、立ち尽くす自分を肯定してしまう妥協とこれに対する嫌悪を抱くようになり、それらが相克し、ついには言いようのない感情が現れ、それは遠くに行ってしまった彼らの背中にぶつけられる。
そんな誰もが経験したことがあるだろう停滞による焦燥と苦痛と苛立ちに寄り添ってくれる楽曲です。
https://youtu.be/Dr5k_r8ynEk?si=4lWhfwbHFjeJz4Gf
同胞に捧ぐ
「同胞に捧ぐ」は、爽やかな”Widwest Emo”的なギターで優しすぎる心を鳴らしながら、叫びと激しい演奏で怒りを表現した楽曲です。
その怒りは、優しさからもたらされた情です。 大切な人が誰かに傷つけられたとき湧き上がってくる憎悪は、痛みを想像できる心がもたらす感情です。
しかし、その心は白すぎるがゆえに、変えることのできない社会構造にさえ怒りを抱きます。
人と人とが自己利益のために干渉することで、誰かが必ず傷つく社会という構造。 これに怒りを向けることは正しいです。 ですが、その怒りが理想に着地することはありません。社会構造の不条理から傷つくだけです。
誰かを守るために社会に立ち向かっても、巨大な構造を前に何もできない。 だから、ただ叫ぶ。それが無為に終わることを理解しながら——その虚しさを抱きながら——自らの正義と傷ついてしまった大切な人のため、声が枯れるそのときまで叫び続ける。
「同胞に捧ぐ」は、無意味に終わるかもしれない行為を傷つきながらもやり続けてしまう人を支えてくれます。
優しすぎる心と、その怒りに寄り添ってくれるのです。
https://youtu.be/59bgkRxUK0Q?si=m4btdl3RhvN85Nz3
道先案内
「Laget’s Jam Stack」は、陰鬱的・沈痛的とも表現できる音楽世界で、心に傷を負った人を支えてくれます。
ですが、楽曲は非常に聴きやすく、親しみやすいものが多いです。 メロディが良く、バンドサウンドが良いのです。 なので、ここまで記述してきた小難しい話は忘れてもらって、とりあえず「Laget’s Jam Stack」の楽曲を聴いてみてください。
そこには、困難にぶつかっても何回でも立ち上がる人間存在の美が存在していますから。
https://www.youtube.com/@lagetsjamstack3832
余力があれば
今年の5月6日にリリースされた「延命措置」というEPが本当に良いので、ぜひ通しで聴いてみてください!
EMOとかグランジが好きな人だったら、一瞬で好きになれます!
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lokFuRiChF_ZXXXX_fKnYhYnPI3h_NXs0&si=jd6Xw2t2xgjti7gD