均一化されて
生活の中に生成AIが浸透し始めてどのくらいたったのでしょうか。
普段、私たちが使っている言葉で自在に指令を与えられる生成AIは、その利便性からすっかり生活の中に溶け込みました。
ただし、生成AIは厳密な指令を与えないと、均一な解答を返します。 それを多くの人が疑いなく受領した場合、人々はその解を絶対的なものとみなし、それに従って行動します。
もちろん、その行動が煩わしいものであり、行動の均一化によって余暇を増やすことができれば、それは素晴らしいことです。
しかし、創造的な思考を任せてしまったのならば、それは思考の均一化という悲劇です。
ですが、思考の均一化は情報が横溢する社会において致し方ないことです。
情報の取捨選択に疲れ切った脳を少しでも落ち着かせるには物理的な思考を減らすほかに術はないのですから。
テクノロジーに囲まれた生活とそこに伴う疲弊と自由の減衰。 これを微かに和らげるモニターの向こうの幻想。
今回はそんな現実を実直に描き出す「blue web.」を紹介させていただきます!
https://youtu.be/tXjQXewt_RI?si=AJOSe_vD9wsN45DI
非偶然的な生活を奏でる「blue web.」
「blue web.」は、日本のオルタナティブ・ユニットです。
その音楽性は、シューゲイザーの轟音、オルタナティブロックの鋭利な憂い、エモの爽快感、ブレイクコアの激しくも機械的なビート、ボーカロイドの乱れることのない完璧な韻律が組み合わさった、多層的なものです。
この無数のジャンルが重なることで紡ぎ出される轟音は、澄んでいて微かにざらついた青色を纏っています。
それは早朝の透き通った少しだけ冷たい青空であり、仄暗い部屋を照らす青白い光であり、PCのモニターに映し出されるざらついた個人ブログの明朝体の文字の連なりです。
努力や友情といったジャンプ漫画の紙面に描き出される空想的な輝きではなく、AIや情報機器が浸透して偶然性が排除されつつある無機質な現実を「blue web.」は青い轟音によって描き出しています。
その轟音は日々のささやかな苦悩と幸福を描きます。 そこで明らかになる生活に根差した感情は、等身大の現代人の有機的な情動であり、虚飾を排した実直な青さです。
https://youtu.be/XbbFtTv6DyQ?si=OXh7RpOZLx6BWTxb
Blue Reverberation
透き通った轟音とブレイクビーツで始まる楽曲です。
イントロでは、怒涛のようなブレイクビーツが鳴り響く中、歪んだギターが爽快感と微かな悲しみを感じさせるリフを奏でます。
Aメロではギターが鳴りを潜め、ブレイクビーツと楽曲を支えるシンプルなベースの重低音の中、アンニュイな初音ミクが歌声が奏でます。轟音との相対的な静けさは、イントロから続く張り詰めた疾走感を一度和らげ、楽曲全体を落ち着かせます。
ただ、その落ち着きは人間の精神と同じようにすぐさま爆ぜ、突き抜けるブレイクビーツと爽やかなギターリフへと接続されます。
爽やかさだけでは片づけられない多層的な意味を持つ音は、Bメロへと楽曲を推し進めます。Bメロでは、相対的にゆっくりとしたリズムがもたらされ、その中で歪んだギターが絡み合うリフを奏でています。
サビではきらきらと青く輝く音を歪んだギターが奏で、轟音を真っすぐ導いていきます。
心地良くありながらもどこか憂いを帯びた音の塊はブレイクとともに爆ぜ、幻想的な残響をもたらし、その終わりとともに再び音たちは緊張をもって疾走します。
疾走する青い音は、透明で冷たい青い空を想起させる音の壁を立ち上げ、シューゲイザーの陶酔をもたらします。
さっぱりとした爽やかな甘さは陽炎のような残響をもたらし、その中で初音ミクが歌います。この空間的な音の中で奏でられる完璧な韻律に、澄んだ空気を照らす朝陽の如き輝きを持つきらきらとしたギターが加わります。
こうして空間が開かれ、空間を照らす光がもたらされ、その閉じられた静謐な空間がブレイクビーツと調和することで、楽曲は轟音の中にありながらも理性的な光を宿したまま終わりへと進んでいきます。
この相反する属性を有した音がもたらす光は、劇的な希望や絶望を照らすものではなく、普遍的でひたすらに苦しい生活全体を初夏の朝陽のように照らすものです。
柔らかくありながらも微かに冷たい音による光は、小さな生の小さな苦しみを明らかにして、まだ見当たらない次の目的地を一歩ずつ照らし出してくれます。
https://youtu.be/CCIaIFJ_464?si=eJn_FnCum0Cz9xwh
やがて幽霊になる
初音ミクの歌声と、透明な切なさを帯びるアルペジオから始まる楽曲です。
イントロで奏でられる初音ミクの歌声と絡み合うアルペジオは透き通った青い世界を立ち上げます。その中で、きらきらとした残響をもたらす幻想的なギターがリフを奏でることによって、楽曲全体が静かな憂いを帯びます。
完璧な韻律を持つ歌声と2本のギターによって構成される青い幻想性は、ブレイクビーツが加わることによってより強調されます。
ゆらゆらと立ち込める陽炎のような幻想はイントロの終わりに迎えるギター単独のパートによって最高潮を迎え、淡く憂いを帯びた青は、その色彩を一切途切れさせることなく、Aメロを染めています。
画用紙に滲んだ水彩絵具のような青い音は、遠くの方で鳴っているような激しいリズムと組み合わさります。その遠くにある音は、初音ミクの歌声とともに近づいてきます。この音的な接近は心持ちを高揚させ、それが頂点に達したところで再びAメロへと楽曲を運んでいきます。
2度目のAメロでも、クリーンなギターと空間的な音を鳴らすギターとが相互補完するようにアルペジオとリフを奏で、ブレイクビーツがそれを支えています。
直進するリズムの周辺に空間を作り、色彩を作り、感情を作り上げるギターの青い音は楽曲に奥行きをもたらし、2次元的存在としての初音ミクを3次元的な現実存在に立ち上げます。そうして歌声は、奏でられる楽器的な存在から、主体性を持つ存在へと変化します。楽曲全体を包み込む憂いを帯びた幻想的な青はその幻想の中に3次元的な意味を持ち、楽曲は世界から遊離した幻想ではなく、現実世界に根付いた幻想へと変遷します。この現実世界に根付いた幻想は、ブリッジでギターが空間的な響きを持つリフを奏でることで、より強調されます。そうして「叶うなら」という歌声が消えるとともに、歌のないサビが展開されます。
ブレイクビーツの中、ギターは力一杯の轟音を奏で、その力強さが理性的な幻想とは異なる非理性に基づいた荒々しい青を描き出します。ここで描き出される青は走査線が錯綜する古ぼけたPCのモニターであり、そこから発せられる不安定な明滅のブルーライトのような瞬きの色彩です。荒々しい青色の嵐が収束すると、理性的なアウトロが展開されます。幻想的な音によって形成される理性的なアウトロは、相対的に静かなリズムとともに展開されます。
そして、陽炎が地面に吸い込まれるようにギターが残響を広げ、それとともに楽曲はすっきりと終わります。
それは理性的な幻想と非理性的な幻想が収束し、柔らかくも激しい温もりの中から脱し、冷たい現実へと戻るような感覚です。
https://youtu.be/fDjwR_o3gEY?si=RSCNT1Vy0IxdxfFv
道先案内
「blue web.」は、シューゲイザー、オルタナ、エモなどのギターロックだけではなく、ブレイクコアやエレクトロニカなどのクラブミュージックを取り入れた、複合的な音楽性を持つユニットです。
その多層的な音楽の中で歌を紡ぐのはボーカロイドです。
肉体が奏でるノイジーなギターと、決して崩れることのない完璧なリズムと韻律。それらが作り上げる青い轟音は、現実と、その奥でひっそりと輝く幻想を克明に描き出しています。
虚飾を排した美しい音楽をぜひ聴いてみてください!
https://www.youtube.com/@bluewebdot
https://open.spotify.com/artist/4VgTP6eMhXMajD7e5vfSkI?si=4BCMlQ_HRdSk6wJQIjzNTQ
https://music.apple.com/jp/artist/blue-web/1832435726